大衆明治史     菊池寛 著



大衆明治史最終章

「明治」逝く


 半世紀にも満たない僅かな時代に、日本は真に目覚ましい発達を遂げた。
この愕くべき進歩の動因は、不出世の英王にてましましたる明治大帝を中心に、
国民が真に挙国一致の団結の下に、勇往邁進したる「明治の精神」に帰することができる。

 指導者も優れてゐた。
彼らの眼光はつねに世界の大勢を洞見し、彼らの精神はいつも見事な調和を示して、
凡そ極端に流れるといふことはなかった。
外国文化を摂取するのに急であっても、日本の伝統精神がいつも基調をなしてゐた。

 国民も勿論、進歩するだけのよい素質を沢山持ってゐた。
偏することのない物の観方、あくまで進取敢為の精神は、明治全時代を通じて、
どれくらゐ活気ある場面を展開したかしれない。

 もちろん明治史にも未熟さもあるし、悲しみ、焦燥もある。
しかし、外国が二百年から三百年もかかってやったことを、
僅か五十年にして追ひ着かうといふのであるから、それは恕すべきであらう。

 敢闘の意気を満面にみなぎらして、
世界史のコースを列強に伍して疾走するこのランナーに交替して、
われわれは更に新しい勇気と決意をこめて、走りつゞけなければならない。


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